写真:CISCO 2010
まとめ:21世紀型スキルの定義
知識基盤社会で成功するために必要な能力やスキルのこと
単なる知識の習得だけでなく、それを活用する力が重視される
主な構成要素
国際的な取り組み
日本が目指す21世紀にふさわしい学びとは?
文部科学省の見解は、現代社会の急速な変化とグローバル化に対応するために必要な能力の育成を重視しています。これらのスキルには、創造力、イノベーション力、批判的思考力、問題解決力、コミュニケーション力、コラボレーション力などが含まれます。これらのスキルを「基礎力」「思考力」「実践力」の3つのカテゴリーに分類しており、それぞれのスキルが相互に関連しながら、個人の能力を総合的に高めることを目指しています。
歴史的背景と展開
「21世紀型スキル」という用語には、批判的思考、問題解決、コラボレーション、デジタル リテラシー、創造性などの幅広い能力が含まれます。 これらのスキルの必要性は、工業経済から知識・サービス経済への世界的な移行によって生じ、複雑な問題解決と適応性に熟達した労働力を必要とすることから生まれました。 この動向は 20 世紀後半、特にテクノロジーの進歩により職場が劇的に変わり始めた 1980 年代に台頭しました。 この時期には、新たな経済需要に合わせて教育目標を再定義することを目的として、各国の政府によって重要な報告書や取り組みが開始されました。 例えば、米国国家教育優秀委員会による1983年の報告書「危機に瀕する国家」では、高次の思考スキルとテクノロジー熟練度を強調した「学習社会」に向けた教育改革の必要性が強調されました。
P21パートナーとATC21Sプロジェクト
21世紀型スキルを分類および定義するために、さまざまなフレームワークが開発されています。その 1 つは、全ての子どもが21世紀に相応しい教育を受けられるようにと、CISCO、マイクロソフト、インテル、アメリカ教育省からなる、「21 世紀スキルのためのパートナーシップ (P21) 」です。これは、これらのスキルを、学習とイノベーションのスキル、デジタル リテラシーのスキル、キャリアとライフ スキルの 3 つの広い分野に分類しています。
※P21(Partnership for 21st Century Skills)は、2002年に設立された非営利団体
同様に、Cisco、Intel、Microsoft などの大手企業が支援する 21 世紀スキルの評価と指導 (ATC21S) プロジェクトは、教育システムにおけるこれらのスキルの理解と導入を進める上で極めて重要です。
※ATC21s:Assessment and Teaching of Twenty-First Century Skills Project
https://www.youtube.com/@ATC21S/featured
本書(ATC21s)の概要
ATC21Sプロジェクトは、21世紀に必要なスキルを特定し、評価と教育の方法を開発することを目的とした。
21世紀スキルとして、協働的問題解決力と、デジタルネットワークを通した学習力の2つが選定された。
協働的問題解決力は、社会的スキルと認知的スキルから構成される。
社会的スキル: 参加、視点取得、社会的調整
認知的スキル: 課題調整、知識構築、学習
デジタルネットワークを通した学習力は、4つの側面から成る。
ネットワークにおける消費者としての機能
ネットワークにおける生産者としての機能
ソーシャル資本の開発への参加
知的資本(集合知)への参加
評価タスクの開発、パネリング、認知実験、パイロット調査、本調査を経て、スキルを測定するためのデータが収集された。
収集データから生徒の能力推定値を算出し、発達段階に応じたレポートを作成して教師にフィードバックする仕組みが構築された。
本書では、21世紀スキルの評価と教育の具体的な方法論が詳述されている。
21世紀型スキル 便利なまとめ表
日本や各国の展開は?
スキルは、従来の学校教育で重視されてきた知識の習得だけでなく、批判的思考、問題解決能力、コミュニケーション能力など、より実践的で応用性の高い能力を含んでいます。各国は、これらのスキルを育成するための教育改革が進められており、その動向と展開には多様なアプローチが見られます。
日本
日本では、21世紀型スキルの育成に向けた教育改革が進められています。文部科学省は、情報化社会に対応した能力の育成を目指し、批判的思考力や問題解決能力、ICTリテラシーなどを重視しています。また、平成25年には「21世紀型能力」が提唱され、それをうけて平成26年には「21世紀型の学力」を「社会を生き抜く力を備えた,未来への飛躍を実現する人材としての資質や能力」と定義しています。
「思考力」とは
「一人ひとりが自ら学び判断し自分の考えを持って,他者と話し合い,考えを比較して統合し,よりよい解や新しい知識を創り出し,さらに次の問いを見つける力」であり,問題の解決や発見,アイデアの生成に関わる問題解決・発見力・創造力,その過程で発揮され続ける論理的・批判的思考力,自分の問題の解き方や学び方を振り返るメタ認知,そこから次に学ぶべきことを探す適応的学習力等から構成されるものである。
「基礎力」とは
思考力を支える力で,「各教科で獲得した基礎的・基本的な知識・技能および,それらを使いこなす資質・能力」であり,それらの資質・能力はもちろん,技術革新を背景に,情報化が著しく進む今日において,情報や通信機器を使いこなす能力も不可欠であり,情報スキルも,基礎力として位置付けている。
「実践力」とは
思考力の使い方を方向づける力で,「日常生活や社会,環境の中に問題を見つけ出し,自分の知識を総動員して,自分やコミュニティ,社会にとって価値ある解を導くことができる力,さらに解を社会に発信し協調的に吟味することを通して他者や社会の重要性を感得できる力」であり,自分の行動を調整し,生き方を主体的に選択できるキャリア設計力,他者と効果的なコミュニケーションをとる力,協力して社会づくりに参画する力,倫理や市民的責任を自覚して行動する力などを含んでいるものである。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/095/shiryo/1336562.htm
アメリカ
21世紀スキルの評価と教育に関する動向は、教育改革の一環として、学生が現代の社会や職場で成功するために必要なスキルと知識を身につけることを目指しています。これらのスキルには、批判的思考、創造性、コラボレーション、コミュニケーション、情報リテラシー、メディアリテラシーなどが含まれます。アメリカでは、21世紀スキルの推進と統合に向けた複数の取り組みが行われていますが、その実施は遅れが見られます。
P21 が提唱する21世紀型スキル
アメリカにおける21世紀スキルの推進には、Partnership for 21st Century Skills (P21) が中心的な役割を果たしています。P21は、教育者、教育専門家、ビジネスリーダーからの入力をもとに、21世紀の学習のためのフレームワークを開発しました。このフレームワークは、学生が仕事や人生で成功するために必要なスキルと知識、および21世紀の学習成果を支えるための支援システムを定義し、示しています。
半円の外側3つ:
・Life & Career Skills(人生とキャリアのスキル)
・Learning & Innovation Skills(学習とイノベーションのスキル)
・Information, Media & Technology Skills(情報、メディア、テクノロジースキル)
その土台(緑)
Key Subject(主要科目)- 3Rと21st Century Themes
21st Century Themes (21世紀のテーマ)とは、
-Global Awareness (国際感覚)
-Financial, Economics, Business & Entrepreneurship Literacy
(金融、経済、ビジネス、起業リテラシー)
-Civic Literacy(市民リテラシー)
-Health Literacy(健康リテラシー)
-Environmental Literacy (環境リテラシー)
https://www.battelleforkids.org/insights/p21-resources/
※ P21関連の各種資料があります
教育改革への取り組み
アメリカの教育システムは、2002年のNo Child Left Behind法の制定やCommon Core State Standardsの(共通中核基準)開発など、過去数十年にわたり大規模な改革を試みてきました。しかし、これらの改革は、21世紀スキルを効果的に統合するための根本的な変革には至っていません。20世紀の工業社会モデルによって運営される学校教育の「馬と馬車」モデルから、21世紀スキルを重視した革新的な「テスラ」モデルへの移行が必要とされています14。
※馬と馬車モデルでは、生徒はシステムの製品とみなされ、効果的な指導を促進する「品質管理」手法による標準化された教育が行われてきました。
ヨーロッパ
欧州諸国における21世紀スキルの評価と教育に関する動向は、教育システムの変革、デジタル技術の統合、そしてグローバルな労働市場の要求に応えるためのスキルの重視に焦点を当てています。以下に、最近の研究結果と政策動向をまとめます。
教育システムの変革
欧州委員会は「新しいスキルアジェンダ」を推進しており、これには教育の質と関連性の向上、スキルと資格の可視化と比較、スキルインテリジェンスの進展が含まれます10。また、教育システムを現代の労働市場のニーズに合わせて調整し、すべての市民が適切な訓練とスキルを受けられるようにすることが目標です。
デジタル技術の統合
デジタル技術は教育評価の方法に革命をもたらしています。新しい評価ツールの開発が進められており、これには学生の学習プロセスだけでなく、成果も捉えることができる技術が含まれます2。これにより、教師は教室での介入や教育政策の開発に役立つ正確で有用な情報を得ることができます。
労働市場の要求
21世紀のスキル、特に自己管理能力、批判的思考、問題解決能力、コミュニケーション能力、チームワーク能力が高く評価されています4。これらのスキルは、STEM分野だけでなく、すべての分野の卒業生にとって重要です。また、大学がこれらのスキルを十分に育成できていないという懸念もあります。
シンガポール
アジアでは、シンガポールが21世紀型スキルの育成において先進的な取り組みを行っています。シンガポール政府は、批判的思考や創造性、コミュニケーション能力などを重視し、これらを統合的に育成する教育プログラムを実施しています。
21世紀スキルのフレームワークと評価
シンガポール教育省(MOE)は、学生がグローバル化された世界で成功するために必要なスキルを体系的に育成するためのフレームワークを設計しています。このフレームワークは、コアバリュー、社会感情的スキル、そして21世紀のコンピテンシーを包括的に取り入れています。
教育プログラムの改革|NTU
シンガポールの教育改革は、教師の資質向上と学生の全人的な成長を目指しています。特に、Nanyang Technological University(NTU)によって導入された「21世紀の教師教育モデル(TE21)」は、プロフェッショナル教師の開発と学生の21世紀スキルの育成に重点を置いています。
21世紀型教育に対応する教師の 5 つの強化は、価値の明確化と再マッピング、スキルと知識の若返り、V 3 SK モデルと GTC フレームワークの統合、将来に備えた教師の役割の明確化です。
https://www.ntu.edu.sg/nie/about-us/programme-offices/office-of-teacher-education/te21
実践的な学習アプローチ
シンガポールでは、実践的な学習アプローチが取り入れられており、学生が現実の問題を解決する能力を養うことを目指しています。例えば、Institute of Technical Education College Westでは、インタラクティブなシナリオベースの学習を通じて、学生が理論知識を実践的なスキルに結びつける方法を学んでいます。
デジタル技術の活用
教育技術の活用もシンガポールの教育改革の重要な部分です。MOEは「教育を通じた技術変革」マスタープラン2030を発表し、AIなどの新技術を活用して、個々の学生に合わせた学習体験を提供することを目指しています。
教育評価の進化
伝統的な試験中心の評価から、学生のポートフォリオやプロジェクトベースの評価へと移行しています。これにより、学生のクリティカルシンキングや問題解決能力など、21世紀のスキルをより適切に評価することが可能になっています。
#結論#
21 世紀のスキルの評価と指導は、現代世界の課題に備える上で極めて重要です。 各国の教育システム内でのこれらのスキルの理解と導入は大きく前進しましたが、既存の課題を克服し、将来の需要に適応するには継続的な革新が必要です。
この21世紀型スキルという教育パラダイムの転換は、テクノロジー、経済、社会の間の動的な相互作用を反映して、世界的に教育が提供され評価される方法を形作り続けています。本サイトは今後も、動向を注視しつつ、21世紀型教育へと展開していきたいと考えています。