日本語教師の国家資格化に関連する背景と歴史
わたし(いとばや先生)は、コロナ禍よりeラーニング中心に学び直しを実践しています。週末の授業でお会いした「登録日本語教員」を目指す方との雑談から興味をもち、第二言語としての英語との比較からまとめました。
写真:トリニティカレッジ(英国)CertTESOLコース 2024
日本語教育の背景と現状
日本語教育の歴史は、明治時代に遡ります。当時、日本は急速な近代化を進める中で、外国人に対する日本語教育の必要性が高まりました。戦後、日本語教育はさらに発展し、特に1980年代以降、経済成長とともに日本語学習者の数が急増しました。
日本語教育機関認定法までの道のり:就学から留学へ
1990年の「入管法」の施行の背景:
・1980年代の留学生「10万人計画」と日本語学校生の急増に対応する日本語教育振興協会(日振協)による日本語学校の設置認可制度の創設が背景にあった。
・1984年、日本語能力試験の開始。また日本語学校が保証人となり在留資格審査を申請できるように。
👉学校の質の低下により日本語学校を進学予備学校へと転換させる
・2010年、日振協の認定事業を廃止。在留資格「就学」廃止。
👉在留資格を「留学」に一本化することで、留学生数を水増し。
・2010年代の技能実習生などの受け入れ増加と連動して、再び進学から就労を前提とした日本語教育の制度変更が行われた。日本語学校ビジネス加熱。
・2019年、留学生「30万人計画」は1年前倒しで達成。
👉日本語学校数は倍増する。
そして、日本語教育機関認定法へ
👉 2023 年 5 月、「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」(日本語教育機関認定法)が成立。
・国内の日本語教育機関を文部科学省が認定すること、そこで働く日本語教師を文部科学省が認定することを定めた法律が施行された。
国内学習者の出身国は?
・下図のように出身国は中国、ネパール、ベトナムと続くが、ネパールは漸減、ベトナムも急増後に減少。
👉 もともと多数者であった台湾、韓国は全体の2から3%に過ぎない。
日本語教師の資格制度の変遷
これまで、日本語教師の資格は民間資格であり、国家資格は存在しませんでした。日本語教育能力検定試験や大学での日本語教育専攻、420時間の養成講座修了などが資格取得の一般的な方法でした。しかし、これらの資格は法的な強制力を持たず、ボランティアや非正規の日本語教師も多く存在しました。
2019年、「日本語教育推進法」成立:
日本語教育機関の認定制度と日本語教師の国家資格化を段階的に実施へ。
👉監督官庁不在の混沌から、教育行政の一つとして位置づけ
👉日本語学校の認定基準では、CFERのB2(自立した言語話者)を想定した「聞く、読む、話す、書く」の4技能すべての教育を求める。
国家資格「登録日本語教員」の創設
2024年4月から、新たに国家資格「登録日本語教員」が創設されます。この資格は、認定日本語教育機関で日本語を教えるために必須となります。日本語教員試験は、基礎試験と応用試験があり、合格後に実践研修(実習)を修了する。この制度の導入により、日本語教育の質の向上と、教師の専門性の確保が期待されています。
👉2024年秋に第一回目の試験実施。受験料は18900円。「日本語教育能力検定試験」より難易度が低いようです。
欧米各国の外国人向け国語教育の制度と現状
アメリカ合衆国
アメリカでは、英語を母語としない学生(English Language Learners, ELLs)に対する教育が重要視されています。各州にはELLプログラムがあり、TESOL(Teaching English to Speakers of Other Languages)資格を持つ教師が指導に当たります。TESOL資格は、大学での専攻やCELTA(Certificate in English Language Teaching to Adults)などの国際的に認知された資格を通じて取得できます。
イギリス
イギリスでは、英語を母語としない学生に対する教育はEAL(English as an Additional Language)プログラムを通じて行われます。EAL教師は、通常、PGCE(Postgraduate Certificate in Education)やTESOL資格を持っています。CELTAやトリニティCertTESOLなどの資格も広く認知されており、これらの資格は実践的な教育実習を含むため、即戦力として評価されています。
👉TESOL:英語教授法のことで資格とは異なる。そのため欧米では別に修士号が求められる。
👉国際資格として、ケンブリッジ検定機構のCELTA(セルタ:入門)やDELTA(デルタ:上級のディプロマ)がある。
TESOLの修士課程かケンブリッジ検定のDELTAを目指すか
カナダ
カナダでは、ESL(English as a Second Language)プログラムが充実しており、TESL Canadaが認定する資格が必要です。TESL Canadaの資格は、大学のプログラムや認定されたトレーニング機関で取得できます。カナダは多文化社会であり、移民や留学生が多いため、ESL教育の需要が高いです。
オーストラリア
オーストラリアでは、AMEP(Adult Migrant English Program)を通じて移民に対する英語教育が行われています。TESOL資格が一般的であり、大学のプログラムやCELTA、英国「トリニティCertTESOL」などの資格が求められます。オーストラリア政府は、移民の社会統合を支援するために、英語教育に力を入れています。
https://www.trinitycollege.com/qualifications/teaching-english/certtesol
👉CertTESOL:初期の英語教育資格で、資格取得時間は200時間。登録日本語教員と同程度の資格です。
※ オンラインで資格取得ができます
各国の具体的な事例
アメリカの事例
アメリカのカリフォルニア州では、ELLプログラムが充実しており、特にロサンゼルス統一学区(LAUSD)は、多数のELL学生を抱えています。LAUSDでは、TESOL資格を持つ教師が、学生の英語力向上を目指して指導を行っています。また、ELLプログラムは、学生の母語を尊重しつつ、英語力を強化するバイリンガル教育も取り入れています。
イギリスの事例
イギリスのロンドンでは、多文化社会の特性を活かし、EALプログラムが広く実施されています。ロンドンの学校では、EAL教師が、英語を母語としない学生に対して個別指導や小グループ指導を行い、学習のサポートをしています。これにより、学生は英語力を向上させるとともに、学業成績も向上しています。
カナダの事例
カナダのトロントでは、TESL Canadaが認定するESLプログラムが広く実施されています。トロントの学校では、ESL教師が、移民や留学生に対して英語教育を行い、社会統合を支援しています。特に、トロント教育委員会(TDSB)は、多文化教育を推進し、ESLプログラムを通じて学生の英語力向上を図っています。
オーストラリアの事例
オーストラリアのシドニーでは、AMEPを通じて移民に対する英語教育が行われています。シドニーの教育機関では、TESOL資格を持つ教師が、移民に対して英語教育を提供し、社会統合を支援しています。AMEPは、移民が日常生活や職場で必要な英語力を身につけるためのプログラムであり、政府の支援を受けています。
まとめ|劣悪な教育環境は改善されるか?
日本語教師の国家資格化は、日本語教育の質の向上と教師の専門性の確保を目指す重要な一歩です。従来の監督官庁不在の無秩序状態(下表:専任教員の配置)から欧米各国の外国人向け国語教育の制度と現状を参考にしながら、日本も効果的な日本語教育を推進していくことが求められます。各国の事例から学び、日本語学習者の視点に立った教育の充実が必要だと思いました。
日本語学校は800校(倍増)、9万人の学生数。
専任教師の配置基準は、生徒60人に一人から40人に変更。